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咲季はまるで大した事ではないとでも言うようにアハハと明るく笑ったが、熊井は、吸おうと思ってくわえた煙草を口から落としてしまった。
PМFの後、順風漫歩の音楽人生を歩んでいるのかと思っていた。しかし、彼女はとんでもない波乱万丈の荒波の中を生きていた。
瞬きも忘れたように愕然とする熊井に咲季は申し訳なさそうに頭を下げ、言った。
「だから、すみません母の葬儀も熊井先生にお任せっ放しで――。わたしあの頃帰国する事すら出来なかったんです」
熊井は、いやいやいや、と手を振った。
「そんな事は気にしなくていいよ。弟君が随分と頑張ってくれて、僕はそのお手伝いをしただけだからね。それより……本当に大変だったのは君じゃないか」
咲季は肩を竦めて柔らかに微笑んだ。
「わたし、こう見えて意外と根性座ってるんですよ」
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