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吐き出した煙草の煙が宙に広がり霧散する様子を眺めながら熊井は咲季の話を思い出していた。
海外で女独り奮闘するのは並大抵の事ではなかっただろう。愚門かな、と思いながらも熊井は彼女に聞いた。
『何故そこまでして頑張れた?』
咲季はその問いに迷うことなく即答した。
『大事なものを捨ててまで選んだ道を諦める時は死ぬ時です』
強い。半端じゃない強さを見せられた、と煙草を口にくわえた熊井は腕を組み、うーん、と唸った。
しっかりと地に足付けて前を向く彼女に、結婚はしたのか、とはとても聞けなかった。
『今回、札幌にはこれに出る為に帰ってきました。よかったら奥様と聴きにいらしてください』
そう言って咲季はチラシと招待券を二枚、置いて帰って行ったのだ。
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