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吹き抜けた初夏の風が、ライラックの、ジャスミンにも似た花の香りを微かに乗せてきた。
平日の午後、石造りの厳かな旧控訴院が見える大通り公園の十一丁目は穏やかな時が流れていた。一丁目から七丁目辺りまでで開催されているライラック祭りの喧騒も遠く感じられる。
「あなたは、本当に身勝手な人ですね」
思い出のマイバウムを見上げていたわたしの前に現れたその人は少し離れたところで立ち止まり、フワリと微笑んだ。
「やっと忘れられそうだと思った頃にひょっこりと現れる。一度ならず、二度までも」
最後に会ったあの日から十二年。長い年月、彼はどれほど自分を磨いてきたのだろう。立ち姿だけで人を魅了する深みを持った男性となって現れたあなたを見、わたしは眩しさに目を細めた。
「二度も?」
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