殺人鬼の噂と公衆電話

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 凛花の声がした。意識を取り戻したらしい。 「大丈夫か?」 「はい」  ほっと、胸をなで下ろす。  凛花はフラフラと立ち上がった。 「立てるんだな。歩けるなら、帰った方が良い。今、救急車を呼ぼうとしたけど、ちょっと上手くいかなくて」 「そんな、大げさです」  凛花の立ち上がった姿を、マジマジと見る。明るいところで見ると、可愛らしい普通の、どこにでもいるような少女だった。  赤く腫れた頬を除いては。  俺の視線に気付いたのか、凛花は慌てた様子で頬を手で隠す。 「鬼です」  ポツリと言う。 「あれは、パパじゃなくて、鬼」  凛花は目を逸らしたまま、そう答える。 「ご迷惑をおかけしました。帰ります」 「あ、ああ」  小雨になってきた。これならそんなに濡れないで帰れるだろう。 「気をつけてな」 「はい」  凛花は微笑んで頷いた。 「ありがとうございました」  そう言って、凛花は去っていった。  ありがとう。  そんな言葉は、いつぶりだろうか。    あの少女は、虐待を受けている。  分かっていたが、ホームレスの俺にはどうしようも出来ない。自分のことさえままならないのに、他人を救うことなど。 「あ」  先ほど、ポケットに入れたメモ書きを思い出す。声の主は言った。  その子を助けたいと思うなら。     
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