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鬼と殺人鬼
その日、凛花が公園に来たら、しばらくお別れだと伝えるつもりだった。
いつものように、ベンチに腰掛け待っていた。
でも、代わりに鬼が来た。
「君が、智おじさん?」
スーツを着た中年男性だった。スタイルは良く、髪型はワックスで固めていて、一切の乱れがない。
俺は返事もせず、注意深くその人物を見た。その呼び方で俺を呼ぶのは、ただ一人のはずだった。
「凛花から聞いてね」
ベンチに座ったままの俺を見下ろす。
「公園のホームレスに付け狙われ困っていると」
凛花の父親の目が半月を描いた。
じりじりと、近づいてくる。
「さぁ、可愛い娘を怖がらせる浮浪者をどうしてやろう? 警察に突き出しても良いが」
公園の照明がつき、薄暗くて見えていなかったものが、はっきりと見えた。
白いシャツの赤いシミ。
「この手で、消してやっても良い」
見たことのある、冷たい瞳。人を人と思わない。
「お前、凛花に何した」
そう言った途端、寒気が襲った。殺気、だったのかもしれない。
その顔は、まさに鬼だった。
「馴れ馴れしく、娘の名前を呼ぶな!」
「ぐぅ!」
腹を蹴られた。ベンチから滑り落ちる。
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