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そして、俺をボランティアの炊き出しの場へ案内してくれた。久しぶりのマトモな食事に、涙を流しながら食べた。他の仲間にも紹介してもらった。
捨ててあるゴミは金になるものもあるから、たまに取り合いが起きた。以前に絡まれた経験から、たくちゃんのおこぼれを貰うくらいで、積極的に漁ることは我慢していた。
穏やかな日々が続いた。ダンボール作りだが、屋根付きの住処が出来た。他の皆と最初は衝突したが、挫折を知っている同じ仲間なだけあって、段々と分かち合うことが出来ている。
そう思っていた。
「俺のネクタイピンがねぇ!」
ある日、ノブさんと言う人が、朝から騒いでいた。ゴミ漁りで得た金を全部酒につぎ込んでいる、赤ら顔のお爺さんだった。
「なんだぁ、ネクタイなんとかってぇ」
誰かが茶々を入れる。どかっと鈍い音がする。気の短いノブさんが、その誰かを殴ったらしかった。
「バカヤロウ! ネクタイピンだよ! 俺の大事なネクタイピンがねえんだよ!」
聞けば、別れた奥さんとの子供から、ずっと前にもらったものらしい。いつも握りしめて寝ているが、朝起きたら無くなっていたのだと言う。
「誰ダァ、取ったやつは」
酔っているノブさんは興奮し、皆のダンボールハウスを壊しかねない勢いだった。困り果てていると、たくちゃんがどこからか帰ってきた。
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