その日から全てを失った

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「どうしたんだい、ノブさん」  たくちゃんはノブさんの話を聞くと、うぅん、と腕を組んだ。 「それは大変だ。気は進まないだろうが、皆の家を見せてやってくれよ。それで見つからなければ、ノブさんも気が済むだろう」  たくちゃんが、こちらを見た。 「(さとし)」  俺の名前が呼ばれる。 「お前が一番新参者だ。疑うわけではないが、最初に家を見せて欲しい」  頷く。何もやましいことはない。好きなだけ見てくれと思った。  俺のダンボールハウスに、たくちゃんとノブさんと、立会人だと言う年長者の藤さん(推定78歳程度)が入った。狭い家を、三人が見て回る。当然のことながら何もない、はずだった。 「これは、なんだ?」  ノブさんが茶色いひものついた袋を掴む。 「それは」  俺の言葉を待たずに、ノブさんは袋のひもを解いた。中から少しばかりの空き缶と、 「あ」  細長い、何かが落ちた。  たくちゃんが恭しく、それを持ち上げる。  ネクタイピンだった。 「てめぇぇぇ!」  口を開く間も無く、ノブさんにのしかかられ顔を殴られる。助けを求めるように、たくちゃんを見た。  冷たい瞳だった。  その瞳で、たくちゃんは俺を見ていた。殴られる痛みよりも、その刺すような瞳が痛かった。     
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