5人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「パパの休みにはこの公園に来たの。ママの作ったお弁当を持って。パパとボール遊びもしたんだよ。楽しかった」
「そう」
「最近は来てないんだ」
「どうして?」
「ママがいなくなったから」
お気に入りのぬいぐるみがなくなったような、そんな言い方だった。
「それから、パパがおかしいの」
「おかしい?」
「ぶつの」
刹那、雨音が遠のいた。
「きっとあれはパパじゃなくて鬼なの。ママが昔話してくれた、良い子にしていないと出る鬼」
「おに」
「そう、鬼が入れ替わったの。パパに戻るまで、ここに隠れてるの」
「そう」
鬼が入れ替わる。
たくちゃんの冷たい瞳を思い出す。あの時の彼も、鬼が入れ替わっていたのだろうか。
荒唐無稽な話だ。
「今度ね、鬼退治を頼もうかと思ってるんだ」
「誰に?」
「学校で噂になってる、殺人鬼に」
「殺人鬼?」
答えの代わりに、小さなくしゃみが聞こえた。
「大丈夫かい?」
「うん」
「もう帰ったらどう?」
「ん」
小さな、霞むような、声。
「おい、本当に大丈夫か?」
反応がない。
思わず近付いて、肩を抱いた。嫌がられるかと思ったが(かなりの時間水浴びさえしてないので)、素直にされるがままだ。額に手を当てると、酷く熱かった。
「熱があるじゃないか」
ぐったりとしている。
「おい」
意識がないようだ。もしかしてこのまま。
最初のコメントを投稿しよう!