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殺人鬼の噂と公衆電話
ーねぇ、知ってる? リンちゃん。
ー何を?
ー最近この辺に殺人鬼が出るんだって。
ー怖いね。
ーでも、悪い人しか殺さない、良い殺人鬼なんだって。
「そうだよ、雨宿りだよ」
長い間があって、やっとそう答えた。
「雨が止んだらどこに行くの?」
「どこにも」
どこにも、行き場所なんてない。
「お家がないの?」
率直な言葉に、思わず吹き出した。
「ふ、は、は」
久しぶりに笑ったせいで、うまく声が出ない。情けなくて涙が出そうだ。
「変なの」
少女はそれだけ言うと、黙った。俺に興味をなくしたのだろう。
雨は止みそうにない。
「あのね」
沈黙に耐えかねてか、少女が口を開く。
「凛花って名前なの。おじさんは?」
一瞬、口籠った。
「智」
「じゃあ、智おじさん」
何だかくすぐったい。
「ねぇ、智おじさん、凛花の話、聞いてくれる?」
切実な声だった。黙っていることを肯定と捉えたのか、彼女は話し始めた。
「凛花はね、パパとママと凛花の三人暮らしなの。パパは凛花たちのために、毎日遅くまで働いてるの。ママは毎日美味しいご飯を作ってくれるの」
一般的な、家庭の話だった。
最近は聞くことさえない、懐かしい、家族の。
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