7人が本棚に入れています
本棚に追加
僕達の住んでいる街には、たくさんの伝承があった。
双子は不完全で、両方を生かしている限りもう片方も早死にしてしまうため、早急に片方を殺さねばならないだの、白い鳥が五羽以上集まっているのを見た人物は呪われてしまうため、隔離して5日間を暗い蔵の中で過ごさなくてはならないだの。
その中に、15年に一度、痣のついた男が同じく痣のついた女を殺して街への生贄に捧げなくてはならないというものがあった。街を守る水晶に女の血を吸わせることにより、水晶の力が強化され街は安泰になるんだそうな。
この痣は遺伝によるものらしい。なので痣のある家系の者は、必ず男と女の両方を生まなくてはならない。
生まれた時からこの風習は続いているので、誰も疑問に思うことはない。
殺される女と殺す男は非常に名誉なことだと教えられていて、女を殺す行為を見守る人々は、女に感謝をしながら、自分達の安寧を祈る。
……が、疑問に思わないのと喜んで受け入れるのは別のことで。
「これは名誉なことなのよ。これで私達は皆平和に暮らしていけるの」
必死に逃げようと説得した僕に、姉様はふんわりと笑う。
大切な姉様を殺すことなんてできない。僕の先祖は、どうやって自分の家族を殺すという選択を甘んじて受け入れられたというのか。
「さあ。儀式を始めようか」
街の中心部にある大きな水晶の前で、祭司と呼ばれる人々が声をあげる。
祭司が姉様を囲むようにろうそくを置いて、儀式感を高めた。
姉様は睫毛を伏せて何を考えているのか分からない表情で立っている。薄い水色のヴェールをかぶり、白と水色のローブを身に着けた彼女はぞっとするほど綺麗だった。
「我らの平和のために!」
祭司が声をあげると、いつもは穏やかに輝いている緋色の水晶が、妖しい光を放つ。毒々しい光は、姉様の血を求めているかのような禍々しさがあった。
「清き乙女の血を!」
声に反応して僕の体が勝手に動き出す。動きたくなんてないのに、勝手に祭司の手から剣を受け取り、姉様の前に立っていた。
姉様は目を閉じて手を広げた。まるで僕に殺されることを望んでいるかのような格好だ。
嫌だ。嫌だ。僕は、姉様を殺したくないんだ……!
僕のそんな願いも虚しく、腕は勝手に剣を振り上げる。
必死に抵抗すると少し勢いは弱まったが、剣をおろす腕は止まらない。
嫌だ。やめろ。やめろ……!!
剣は、振り下ろされた。
最初のコメントを投稿しよう!