vol.1 遺跡

2/25
前へ
/31ページ
次へ
肌を刺す太陽と、己の生を鳴き叫ぶ蝉共。そして目の前の教壇に立つ、頭の寂しい教師。 夏だ。夏真っ盛りだった。そして今は、中学に入って初めての夏休みへの注意事項を聞いているところだった。 「皆様には心を豊かにするため、自分が興味を持ったことについて研究し、それをまとめたプリントを提出していただきたいと思います」 要するに、中学からは従来用意されている宿題の他に、何か自分でテーマを決めて提出しろと言われているのだ。 小学生までは、自由研究は任意のものだった。何せ自由だ。何をやるのかが自由であれば、やるかどうかすらも自由だ。 今の時代、ショッピングモールやスーパーを少しうろつけば、自由研究用のキットというものを見つけられる。お値段は中学生のお小遣いから考えると少し値は張るが、親にねだって買ってもらえないような値段でもない。むしろ親によっては、これで学生生活を滞りなく送ることができるならば問題ないと考えるレベルだろう。 他、お金をかけなくてもできる自由研究だってある。例えば植物や動物の成長日記だ。 仁沙(にさ)は日記を書くぐらいならば貯金箱を作るタイプだったが、その幼馴染の八郎太(はちろうた)は、毎日日記をつけるのは苦にならないタイプだった。 小学生の頃など、6年間全部の夏休みの自由研究でエンドウマメの成長日記を書いていた。しかも育った豆をまた次の年に育て、その豆で成長日記を書いていた。やることが毎年同じだったので先生は苦々しい顔をしていたが、少しずつ内容を変えていたので、その成長日記は「山野(やまの)のエンドウマメシリーズ」などと呼ばれていた。 「八郎太は今年もエンドウマメシリーズ続けるの?」 「いや、さすがにそろそろ打ち切りだろ。書くとしたらヒマワリかなー……。やっぱヒマワリの方がインパクトあるよな。でかいし」 「植物ってことに変わりはないのね……。あたしは今年はちょっと張り切ってみようと思ってるの。その名も、雪祭りならぬ泥祭り!!泥で大きい像を作るのよ。泥団子を作るようにして固めていけば、あたしの身長ぐらいならいけるでしょ」 「おまえはおまえで、やっぱり粘土系であることに変わりはないんだな……」 「八郎太の植物成長日記よりは変わり映えすると思うけど?」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加