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そんなことはすっかり忘れていた数週間後、近所で放火と思われるボヤ騒ぎが相次いだ。「不審者」というキーワードが、マスコミの報道で乱れ飛んでいる。
不審者?・・・、何かが心に引っ掛かる。あっ、そうだ、思い出した、あの、インタビューの一件を。俺、完全に不審者じゃん。
それからというものの、心が落ち着かない日々が続いた。あの一件が警察の耳に伝われば、俺の存在は絶対に捜査線上に上がる。アレは全てウソです、違うんです、冗談です。交番の前を通る度、自らそこへ飛び込んでいき、早めにこの身の潔白を訴えたくなる衝動に何度も駆られた。
察しがつくと思うが、こんな性格の俺は、せっかくの日曜だって、デートをする彼女もいなければ、遊びに繰り出す仲間もいない。その日も家でゴロゴロしていると、不意に、「キュッ」という、自転車のブレーキ音が、家の前で聞こえた。俺は思わず、リモコンでTVの音をミュートにすると、耳を澄まし、最大限の注意を外に向けた。「コツコツコツ」という、固い足音が聞こえてくる。それが止んでまもなくすると、「ピンポーン」という玄関のチャイムが、部屋に、心に、頭に、ガツンと響いた。
「来たっ、遂に!!」
本能的に俺は、急いでよれよれのTシャツとスエットを脱ぎ捨て、上は襟付きのシャツ、下はチノパンに着替え、ご丁寧に靴下まで履いて、鏡の前できっちりと髪形を整えた・・・。
本当に俺って、小さい男である。
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