となりあう缶の秘密

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となりあう缶の秘密

 地下鉄の駅から上る階段のふもとに、大きなホテルの地下のフロアにつながる目立たない入口があるのに気づいたのは、その駅の近くの会社に働き出してから二年ほどたってからのことだった。  会社は、いつも乗る車両からエスカレーターを上った先の改札を通ってすぐの、地上へ出る階段の先にあったのだけれど、その日はひどく気持ちがふさいでいて、どうしてもそのまま社内に戻る気になれず、階段の下で引き返してしまい、反対側の出口の方向まで地下道を歩いてしまったのだった。  東京の大きな駅に交錯している連絡通路の長さには、いつまでたっても慣れない。迷路のような地下鉄の乗り換えで不安になってしまうことはいつものことだったけれど、いつも通っている、さほど大きくもない駅でも、反対側の出口を目指したら、見慣れない地下通路を延々と歩くことになるのには驚いた。  ようやく反対側の地上出口への階段が見えて来て、これだけ歩いてしまったら、上に出ても見慣れない街角なのだろう、地下を引き返したほうがいいかもしれないと思った時に、階段のふもとに少し奥まるように、品のいい緑の縁取りのガラス戸が二重になっていて、その先に何かの店舗のようなものが見えた。 誰もその方向に行かないので、行ってはいけない場所のように思えて、それでもなぜかどうしても行かなくてはいられない気がして踏み込んでみると、ホテルの地下のフロアで、瀟洒な店舗が並んでいた。
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