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仕方なく玲子は、紙袋を手にして中を覗いた。
「えっと、これって…ストール?」
中には、似てはいるが玲子の物ではないストールがきちんと畳まれ、透明なセロファンで綺麗にラッピングしてあり紙袋に収まっていた。
「そうだ。悪いがあんたのは俺の血がついてクリーニングしても完璧には落ちないらしい。だから、代わりのだ」
ーーー代わり。
玲子は、紙袋を覗いたまま固まっていた。
ーーーあれは、去年の冬に智也がうちに来た時の話だ。
ファッション雑誌をペラペラってめくっていた智也が『これ、なんか玲子に似合いそうだな』って何気ない調子で言った。
どれどれって、チェックして『そうかなぁ』と気のない風を装いながら智也が帰ってすぐにネットで注文したものだ。
智也に似合うなって言って欲しくて。
購入してから智也と会う時に何度かそのストールを巻いて行った。
全く気がつかない智也。智也は、ただその時に何の気なしに私に似合うと思っただけの話。それをまさか本当に買うとなんて思ってもないはず。
だから、智也は悪くない。
智也に褒められたくて買ったストール。
代わりは、認めない。認められない。
「少しくらいなら、落ちなくても平気だから、あれを返して」
紙袋をテーブルへ置く玲子。
玲子の様子をじっと観察していた西は、手にしていたカップを静かに置いた。
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