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西に車でマンションまで送ってもらった。
「またな」
車から降りた玲子に少しだけ微笑んだ西。目は鋭いままだった。
ーーーまたな? 二度とゴメンだ。あんな危険な目に会いたくない。
車を見送ると、玲子はため息をついていた。
ーーー全く、ついてない。あんな男と関わるなんて。
マンションへ入ると、エレベーターに乗った。エレベーターの壁にもたれた玲子。
ーーー疲れる。西といると。気を常に張っているし、たのしめない。
智也となら、大抵楽しい気分になれる。
智也となら……。
智也、顔が見たいよ。
バッグの中からスマホを取り出した玲子。履歴のところに智也の文字がある。
智也とは、まめに電話でも話している。玲子からかける事もある。だが、今日は躊躇していた。
ーーー西と上手くいって欲しいの? 智也? 私を遠ざけたい?
智也の笑顔を思い出していた。
エレベーターを降りると、廊下を歩いた。ヒールの音がコツコツと鳴った。
握りしめたままのスマホが鳴った。ビクッとして玲子は光る画面を見る。
ーーー智也だ!
智也の文字を見ただけで、胸が高鳴る。
ドキドキして、それでいて嬉しい。
ーーー智也が画面を連絡先をスクロールして私の所にわざわざかけてくれてる。そう思うと嬉しくてたまらない。
「玲子? 俺、智也」
画面に表示されるから、わかるのに智也は必ず自分の名前を名乗る。
「うん、私も…かけようと思ってた」
精一杯の伝わりにくい意思表示。
ーーー私は、いつも貴方の声が聞きたいのよ。
「そう? 用事なら先に言っていいぞ」
「ううん、ただの世間話がしたかっただけ。智也は?」
「俺も。なんだか無性に玲子の声が聞きたくなってさ」
ぎゅっとスマホを握りしめた。自然と顔がほころんでしまう。
鍵を開けて、部屋に入り電気をつけた。
「今週末にさ、沖縄料理のめちゃくちゃ美味い店見つけたんだ。行かないかなって思って。二人で」
鍵を締める手が止まる。ドアのノブに置いたまま、玲子は玄関に動けずに立っていた。
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