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彼女との出会い
そう、出会いは大学だった。
三坂優香は僕の大学の同級生であった。同じ大学の同じ学部。初めて出会ったのは、いつかの講義だったことは覚えている。
狭い講義室に数十人が押し込まれていた。講義開始の一分前。彼女は講義室に入ると、空いていた席は一つだった。
「隣の席、いいですか?」
「あ……はい。どうぞ。」
それで僕と彼女の会話は終わった。その日もそれっきりだった気がする。
その講義は毎週火曜日の昼間にあった。
翌週。彼女は再び開始一分前に講義室に入ってきたのだ。そして、偶然にも再び僕の隣の席に座ることになる。
「隣の席、いいですか?」
彼女は同じ言葉で僕に尋ねる。
「あ……はい。どうぞ。」
僕の言葉も変わらなかった。
講義が終わると、すぐに席を立つが、その日の僕は違った。
「どうしてギリギリの時間に来るんですか?」
筆箱をバッグになおしている彼女に向かって、僕は尋ねた。
彼女は動作を止めた。僕の方をゆっくりと振り向く。ほのかなシャンプーの香りが僕の鼻腔をくすぐる。
「私にも分かりません。」
アルバイトか何かだろうと予想していた僕は唖然とする。その表情が面白かったのか、彼女はくすくすと笑った。
「不思議ですよね。朝の六時には起きているんです。朝食を取って、支度をしても時間は余ります。でもどうしてもギリギリになっちゃうんです。」
その後に続いた言葉に、僕は首を傾げることしかできなかった。
「面白いですね。」
「面白いですか?」
「はい、面白いです。」
それからしばらく話をしていたように思う。詳しい内容は覚えていない。天気の話だったかもしれないし、時事ニュースの話だったかもしれない。
僕が覚えているのは、その数分間が幸せだったということだけだ。
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