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礼を言ったものの、言葉が通じなくて首を傾げていたので頭を下げて謝意を示してから口をつけた。馥郁とした香りが口に広がる。少し苦味が残るものの、すっきりした後口で、どことなく鼻腔を花の香りが吹き抜けていく不思議な飲み物だった。
お菓子も老人が先に口に入れてみせ、食べられるものだと教えてくれる。薄い円形の一枚を手に取り、食べてみると、飲み物によく合う、歯触りも楽しい食べ物だった。
「美味しい」
言葉は通じてなくても表情で分かってもらえたのか、嬉しそうに老人が笑う。もっと食べなさいという意味なのか、お菓子が載せられた皿をカイルの方に突き出してくる。遠慮なく戴き、飲み物の温かさが冷えていた体温を胃から温めてくれるのを感じていた。指の先まで温かさが戻ってきた頃、
「カイル、何してんの?」
アランが顔を出した。
「なんかよく分かんないんだけど……ご馳走になってた?」
老人と二言三言交わし、ポケットから出したお金を手渡そうとしていた。しかし、老人は首を振ってアランの手をポケットに戻させ、奥に消えて行った。
「なんだって?」
「お礼しようとしたんだけど、自分の相手をカイルにしてもらってたからいいって。で、ちょっと待ってって言ってる」
奥から戻ってきた老人が、袋をカイルに押し付けてきた。
「え?」
「貰って欲しいんだってさ。貰ってあげれば?」
袋をカイルに握らせた老人が、ぎゅっと手を握ってきた。老人の言葉にアランが頭を下げる。
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