短編

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父の遺品には、私が思った以上に私が送った物が多かった。 例えばだ、私が小学生の頃買ったであろう、ゴルフボールのセットだ。何処のメーカーかもわからないゴルフボールのセットはどこにも開封後が付いていない。 親の心子知らずなんて言うが正にその通りだったのだ。親の心がよくわかっていたら、遺品処理の途中抜け、父と歩いたであろう河川敷などに父がいなくなってから行かないからだ。 春だ。春の風は気持ちいい、顔に風が勢いよくぶつかっても、冬の風みたいに呼吸を遮る寒さがない、寒いは寒いが呼吸はしやすいそんな風だ。 昔の私もこの風を味わっていたはずだ、父と一緒に手を繋いでこの河川敷を歩いていたはずだ。 今よりも背が低かった、私は父の服で顔を隠しながらこの河川敷を歩いていたのだろう。 河川敷を歩いていると、若い親子を見た。 息子と父親のようだった。息子がこけた。すぐに父親は近づいて、息子を肩車して笑っていた。 息子は泣かずに笑っていた。あの子供にとって何回目の春の風だろうと私は思った。 河川敷を20分ぐらい歩いてから私は実家に戻った。不思議な事にまだ土地勘は残っていたようだ。 母は手早く遺品処理を終わらしていた、私が持って帰る空いたままのダンボールには、あの日焼けした紙が最上段に位置していた。
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