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「……まだ言いますか。信じられない」
危害をくわえてきそうなそぶりはないし、落ち着いた声のトーンに、怖いという感情はない。
でも、結婚してほしいという言葉には、抵抗があった。
「10年以上ぶりですよね。なんで突然会いに来て、結婚なんですか? 過去の贖罪? 男性恐怖症になった私に責任を感じてるの?」
「……分からない」
転がっていたユニコーンのぬいぐるみを持つと、近くのテーブルの上に置いた。
数分前、自分の顔に投げられたものとも知らずに、真ん中に座らせている。
「君が女子校に行ってから、誰も連絡が取れなくなったって聞いていた。あそこ戒律が厳しいし、美里さんがまだ連絡が取れていたとは知らなかった」
確かに私の通う女子校は、駅まで園バスの送迎、携帯電話の所持は禁止、見つかった場合は退学、高校からは女子寮、華美な服装、化粧禁止と色々細かい校則があった。
でも単に私が誰とも連絡を取りたい気分ではなかった。誰とも会いたくなかっただけ。
「美里は、連絡が取れなくなった私のために日曜のミサに参加して、手紙をくれたの」
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