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『髪、綺麗すぎ。触っていい?』
彼は、そう言いながら既に私の髪を掴んでいた。
初めてプールの授業があった日。
お団子にして帽子の中に仕舞っていた髪を解いて、肩にタオルをかけて授業を受けていた。
その時、後ろの席だった『なんちゃら一矢』くんに、言われたのだ。
授業中で、先生が黒板にチョークを走らせている音が響く中、彼の声はクラス中に聞こえていた。
『あ、やべえ。授業中だった。風のせいでシャンプーの匂いなのかな、いい匂いが飛んでくるんだよなー』
ごめん、ごめんって悪びれもなくそういったっけ。
次の日から、私は君を好きな女子たちから『色目を使った』と攻撃の的になるというのに。
――なのに。
つまんない意地悪や嫌がらせが吹っ飛ぶぐらいの、極上の笑顔で彼は私の髪に触れていた。
もし髪の一本一本に神経があったら、私は触れられた瞬間にドキドキで死んでしまっていたに違いない。
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