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ただ、髪を切られた日は違った。
特別なのだと勘違いしていた私のプライドごと、ぽきっと綺麗に折れた。
髪が床に落ちる瞬間、振り返る。
――彼の握った手の中に私の髪があって、それから記憶が曖昧だ。
ただ雷のような落ちてくる大きな音が、私の悲鳴だと気づいたのはスローモーションで倒れていく最中、自分で気づいた。
綺麗だと言ってくれたのに、ぐちゃぐちゃにしたのも彼だった。
「いつまで寝ているの? 何時だと思ってるのかしら。さっさと開けて頂戴」
早口でまくしたてられ、私の久しぶりの休日が朝から潰れることが確定した。
何度も何度も一階からインターフォンが鳴り続け、携帯にも着信ががんがんかかってくる。
「どうぞー……」
興奮した母親がインターフォンの向こうで腕を組んで立っている。
嫌な予感しかしなかった。こんな時はヒステリックに自分の要望が押し通されるまで怒鳴るんだから。
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