一、過去系両想い

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彼――南城一矢。 私の旦那さまになる相手が、走ってくる。 「待たせてすまない」 「いえ。もうしわけないけど、私の後ろの席に座っていただけますか?」  最後の抵抗に、向かい合うことは避けて、後ろを促した。  視線を彼のネクタイに落とし、怒りで体が震えているので怖くはなかった。 言われたとおりに私の後ろの席に座った彼から、珈琲を頼む声が聞えた。 「……貴方の言ったとおり、メリットがありましたね。私以外に」 「悪い話じゃないだろ」  悪びれもしない彼の言葉に、今すぐ引っ叩いてやりたいとさえ思う。  でも私の頭の中にぐるぐる回る気持ちは、そんなものでは収まらなかった。 「お願いがあるんですけど。これだけを守ってもらえたら私、貴方と結婚します」 「なに?」  紅茶に映る自分の顔は、復讐に燃えてとても醜い。  母も彼も――自分の心の弱さも嫌い。 「私があなたに触れるまで、セックスはしませんし、貴方から触れてこないでくれますか」
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