秘密の居場所

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 彼はそこで初めて話を止め、わくわくした目でこちらを見つめた。その視線があまりに少年のような無邪気さで満ちているので、私も思わず難題に首を傾げる振りをする。すると彼は満足げににやりと笑って、答え合わせを始めた。  「実はバスで席を譲ったお婆さんは取引先の社長の母親で、お礼を言いに僕を訪ねてきていたんだ。そんで僕は次の日には社長に呼ばれて、直々に礼を言われる。そっからは僕の人柄を買われて出世コースさ。…どうかな。」  そういうと彼は照れくさげにこちらの反応を窺ったが、どうもこうも、お婆さんはどうやって職場の場所知ったんだとか、なんでお婆さんのほうが早く職場着いてるんだとか、突っ込みどころ満載のご都合主義超展開に、私は内心大きくずっこけた。毎度思うが、彼はきっと物語を作るのが下手なのだと思う。もう少しリアリティのある話にすればいいのに、いつも投げやりなハッピーエンドに持っていってしまうのだ。いや、でも冴えない彼がハッピーエンドになるにはこれぐらい超展開じゃないと駄目なのか…悶々と頭を抱えていると、突然身体がふっと宙を浮き、気付いたら彼の膝の上に抱き上げられていた。  「わかってるさ。こんな話あり得ないってこと。でも、万が一、億が一でも本当になったら、って思ったら、明日も頑張ろうって思えるだろう?」     
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