秘密の居場所

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秘密の居場所

 毎日、夕焼けが灰色のアスファルトをオレンジ色に照らす時間。人気のない寂れた商店街を通り抜けて、昔は子供たちでにぎわっていたであろう、今や訪れる者はほとんどいなくなってしまった公園の、滑り台の下。  そこが彼と私の、秘密の居場所。 「こんばんは。今日はまた一段と冷えるね。」  何年も着古しているであろう薄手のコートの上から自分の身体をさすりながら、今日も彼は現れた。私はその言葉に応じることなく、視線を彼の腕に向ける。身体をさする彼の手にはいつもと同じように駅前のコンビニ袋が握られていて、それを視認してやっと私は重い腰を上げ、彼のそばにすり寄った。すり寄りながら、なんて自分はがめつい奴なんだと思う。でも、それを見た彼の目が愛おしそうに細まるのを見ると、そんなどんよりした気持ちは一瞬で融け去って、次はもっとふてぶてしい態度をとって彼を困らせてやろうと思ってしまう。  「うん。ごはん、一緒に食べよう。」  彼はそう言ってビニール袋からおにぎりを取り出し、滑り台の端に腰掛けた。私もそれに続いて彼の真正面に座り、上目遣いで彼におねだりをする。早く。早く。もう昼間からずっとお腹と背中がくっつきそうなのだ。     
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