それぞれの愛

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それぞれの愛

 愛し合う男女が居た。――永遠を誓い合った仲だ。  二人は今、手に手を取り師走の宵の凍てついた風に震えながら、海岸の波打ち際を歩いていた。 「覚悟はいいかい?」 「はい。もうこうする事でしかあなたと一緒になれないのね」 「ああ……僕たちは永遠に一緒だ」  二人を取り巻く環境は窺い知れないが、こうする事でしか添い遂げられないと信じ切る二人は、極寒の海へとその身を入水(じゅすい)させる。    一歩、一歩、死へと歩み寄る二人に躊躇いは見られない。確実にその身を真冬の海に浸してゆく。  ふと誰も居ないはずのこの海岸で、呼び止められた気がした。  振り向けば胸にチクリと違和感が走る。一瞬だけ見えた矢は光となって消え、男は我に返った。――愛の結晶は人間には見えないようだ。 「僕たち何してるんだ?」 「それは私の台詞よ! 寒い寒いさむいー!」  同じく我に返った女も、寒さと海の冷たさに耐えかねて浜辺へと駆けだす。 「なんであんたなんかと死ななきゃならないのよ! 信じらんない!」 「ぼ、僕だってなんで君なんかと! 冗談じゃない!」       
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