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グラグラする。妊婦なのに、また今日もピンヒールを履いている。彼女のお腹の中にいる僕ら2人は、ため息をつかずにはいられない。
「また今日も夜遊びかな。」
僕の片割れが暗い声でぼそっと呟く。妊娠6ヶ月にもなるのに、僕らの母はいまだ夜遊びがやめられない。いや、妊娠がわかる前よりは夜遊びは減ってるけど。
しばらくして、僕らの頭はポワーンとしてきた。お酒だ。
「うっ気持ち悪い・・・。また飲んでるよ」
「とにかく今日は我慢だ。そのうち煙も入ってくるぞ」
「・・・きたっ。けむい・・・」
ピンヒールにお酒にタバコ。僕らの母は妊婦としての自覚が足りない。僕らは無事に外の世界へ出られるのだろうか。いや、出られたとしても、まともに育つことができるのだろうか。
救いなのは、僕らの母の住むアパートが、僕らの祖父母の家のすぐ近くということだ。
「僕、心配でしょうがないよ。外に出た後、母さんにいじめられたりしないかなあ・・・」
片割れが力なく呟く。僕は言った。
「心配してもしょうがない。僕らが生まれたら、ひょっとしたら母さんも変わるかもしれない。たとえ変わらなかったとしても、僕らにはおばあちゃん、おじいちゃんという味方がいる。きっとなんとかなる。」
僕らの祖父母は、定期的に母のアパートに通い、精神的に幼い僕らの母の世話をしてくれている。気が弱くてほとんど頼りにならない僕らの父よりよほど信用できる。
しばらくして、また周囲がグラグラしだした。今日の夜遊びはこれでお開きらしい。
真夜中の帰宅。父は夜勤でいない。こんな日をねらって、母はちょくちょく夜遊びに出かけているのだ。
僕は言った。
「なあ、計画をたてないか?」
「計画?」
「うん。なるべく早く自立できるよう、生まれたら必死に2人で努力しょう。なるべく早く歩けるよう、早くオムツ離れできるよう、お互い励まし合い、頑張るんだ。」
「そうだね。嘆いていても仕方ないもんね。よし、頑張ろう」
あと4ヶ月で生まれる予定の僕ら。双子らしく手を取り合っていこうと、僕らは決心した。
母が寝床に潜り込む気配を感じる。やっと訪れた、安息の時間だ。
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