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出来ることなら、部長のヅラがずれていることを打ち明けてしまいたい。しかし、それは不可能だろう。
なぜなら、部長は記者会見のため、既に壇上の椅子に座っており、わざわざ私が壇上に上がるのはあまりにも不自然すぎる。
――私は知っている。
いつも人前に出るときに最低でも小一時間は鏡を駆使して、あらゆる角度から入念にチェックを行う部長の努力を……。
そんな部長がなぜ今日この日にずらしてくるんだ。そうこうしているうちに、時間は刻々と過ぎて行く。私は一体どうすればいいんだ。
このままだと部長は世間様のいい笑われ者になってしまう。それどころか最悪の場合、会見の途中でヅラがずり落ちでもしたら、部長は失神することになる。
そして、会見は大失敗に終わるだろう。
周囲が騒ぎ始めた。会見直前だというのに、失笑混じりの私語が多くなってきているのだ。
――決めた。
壇上に上がり、部長に打ち明ける。会社のため、そして誰よりも尊敬する部長に恥をかかせないためにも……
私が意を決して立ち上がったそのとき、壇上には音もなく黒い物体がぱらりと落ちた。
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