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朝出掛ける時、玄関を開けると隣の三◯五号室のおばさんと顔を合わした。 「あっ、おはようございますっ!」 僕は勢いよく頭を下げた。 「あら、おはよう。今日からお仕事?頑張ってね」とおばさんは、玄関前を掃除している手を止めて、気さくに声を掛けてくれた。 僕は思い切って、おばさんに訊いてみた。 「あのう、隣の三◯三号室って、どんな方がお住まいなんですか?」 するとおばさんは、少し間を置いて「そうねえ…若い女性の方じゃないかしら。私もちゃんと顔を合わせた事がないのよ」と眉を寄せている。 「え?会った事がないんですか?」と僕は驚いた。 おばさんは長年、ここに住んでいると聞いていたからだ。 「いえ、後ろ姿とか、見かけた事は何度かあるんだけど、まだちゃんとお話しした事が…ねえ」と返事に困っている。 「そうなんですか」 僕は話を切り上げて、会社に向かった。 同じマンションに住んでいて、そんな事があるんだ。 それも今時なんだろうか? などと考えながら、社会人の初日を迎えたのであった。
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