第3章 烏団の花火が打ち上がる

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 8  野川の土手に爽やかな秋の風がそよいでいる。青空はどこまでも高く、遠くにうろこ雲が見えている。  翼橋の両脇に続く土手の道を、茂の右手をももが握り、左手をさくらが握って歩いていた。 「何かご褒美あげなきゃな」  茂が言った。 「何がいい? 」 「なんでもいいのー? 」  お姉ちゃんのももが言った。 「言ってごらん」 「ももね、スマホー! 」 「えっ? 」 「さくらもスマホー! 」 「………」 『スマホ買ってー! 』 「………」 『スマホ♪、スマホ♪、スマホ♪』 「………だめ」  茂が小声で言った。 「どーしてー」  ももが茂の顔を見た。 「まだ、早い…です」 「なんでも良いって言わなかったぁ? 」 「言ってない…」 「ちぇーっ」 「じゃあ、さくらはたもっちゃんのおじいちゃんのイチゴのショートケーキ! 」 「いいね、いちごがおっきくておいしーんだよ」 「丸いおっきーの2つだよ、おばあちゃんもおじいちゃんもいるからー」 「丸いの2つって、ホールを2つ? 」 『うん! 』 「おっきくなきゃやだー! 」  さくらが屈託の無い笑顔を浮かべた。 「いっぱい食べたいもんね! 」 「わ、わ、わかった」 「じゃあ今すぐ『画廊喫茶赤煉瓦』に行こうっと! 」 「えっ、この格好でか? 」  三人は合気道着に袴姿である。 「いくよー! 」  ももが念を込めると、  シュパッ!  三人の姿は消えた…  止め処なく続く野川の流れは、いつものように穏やかだった。
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