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プロローグ
目を覚ますと、そこは戦場だった。
剣を握る兵士の怒号。
駆け回る獣の咆哮。
甲高い剣戟の音響。
飛び交う矢と、炎と、閃光が、曇天を覆いつくさんばかりだ。
死闘ひしめく戦場には、苦い土煙の匂いが立ち込めていた。それに混ざるのは、錆びた鉄のような血の臭気だ。
はじめ、カイトはこれが夢だと思った。現実であるはずがなかった。
「なんだ……これ」
あまりにも理解の及ばぬ状況に陥った時、人は驚きも慄きもしない。ただただ茫然自失として立ち尽くすだけである。
つい先ほどまで、入学式の帰り道にいた。新生活への期待と一抹の不安からあまり眠れなかったカイトは、適度に混雑する電車の中で微睡んでいた。車内には同じく入学式帰りの同級生たちが喧騒を生み出していたが、カイトにはそれも心地よい子守歌だった。
瞼が覆った視界の先で、日常の喧騒が、戦場の喊声に変わる。彼の運命が転換した瞬間であった。
「なんだよこれ……!」
ようやく我を取り戻した時、彼の中に遅すぎる危機感が訪れた。
肌が焼けるように熱いのは、戦場の殺気にあてられているせいか。
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