プロローグ

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 病的なまでに息苦しいのは、張り詰めた空気が肺を引き裂こうとしているからかもしれない。  風切り音を引いて飛来した矢が、カイトの頬を掠めていった。一瞬走った熱さは、すぐにひりつくような痛みに変わる。無様に腰を抜かしてしまったのも仕方のないことだ。ただの男子高校生が、容赦ない殺し合いの中で平静でいられるわけがない。  尻もちをついて目線が下がると、地に倒れた兵士や斬殺された獣の死骸が目に入る。  人間の兵士は、狼や虎にも似た闇色の獣達が争っているようだった。人は剣や槍を用いて、獣の爪牙に対抗している。上空では竜や怪鳥が飛び交い、制空権を奪い合っていた。  カイトはまさに最前線の真っ只中にいた。息を吸おうとして激しく咳込む。口内と喉の奥が異様にざらついていて、満足に呼吸もできない。  すぐ傍を闇色の猛獣が駆け抜けた。分厚い巨躯に弾き飛ばされたカイトは、大地に投げ出され叩きつけられ、鈍い衝撃に喘ぐ。 「おいお前! 大丈夫か!」  近くの兵士が駆け寄ってくるが、答える余裕はない。酸の海に放り出された気分だ。体の至る所が爛れはじめ、鼻腔につんとした痛みを感じ、目には涙が溢れ出す。 「いかん、マナ中毒だ。 誰かこいつを後方へ!」     
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