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第一章
木材を組んだだけの簡素なベッドの上で、カイトは正座をして俯いていた。
強要されたわけではない。険しい顔を向けてくる目の前の女性に反抗の意思がないことを示そうと、カイトが無意識のうちにとった姿勢である。
「いいか。もう一度訊くぞ」
こじんまりとした部屋には、カイトの他に二人の女性がいた。
「名前と所属を答えろ。これは軍令だ」
一人は、厳しい声でカイトに詰問する金髪の女性。切れ長の碧眼は蒼穹を宿したように澄んでいる。仰々しい白銀の甲冑を着込み、腰には長剣を帯びていた。
「伊勢海人です。所属はわかりません」
今日何度目になるかわからない答えを口にする。
目を覚ましてからというもの、ずっと同じ質問を繰り返されている。最初こそ戸惑っていたカイトであるが、流石にそろそろうんざりしてきた。
それは女性の方も同じようで、激しい苛立ちを隠そうともしていない。強かに机を叩きつけ、カイトはびくりと身体を震わせる。
「イセ・カイトという名の兵は我が軍に存在しない。お前が寝ている間に各部隊長にも確認したが、お前を知る者は誰一人としていなかった」
彼女の語気は一息ごとに強くなる。その度、カイトは頭を下げた。
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