あなたの声を聞かせて

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あなたの声を聞かせて

「なんでだよ、菜々華」 無事にクライワのイベントを終え、ビルを出たところで西崎さんにお疲れ様と頭を下げると、西崎さんが不思議そうに言ってきた。 確かにいつもなら車を運転して自宅代わりのホテルに送る所までが業務なのだが、今日はタクシーを呼んである。 新しい予定も入らず、予定通り蔵岩専務と食事に行くことになったからだと西崎さんにそれを告げると不愉快そうに眉を顰めた。 「は?サトルンと食事?」 「はい……事前にお誘いを受けておりましたので」  「ふぅん」 どうも面白くないという顔をしている西崎さん。自分のおもちゃを取られたような感覚なのだろうか? 「そんなの今から断れよ」 いきなりそんな事を言い出した。 「それは大人として出来ません」 なんの理由も無くドタキャンだなんて、出来ない。西崎さんは私の答えに少しイライラしているのか、いつも以上に早口で呟いた。 「へぇ、だからそんなちょっと可愛い格好してるわけね?御曹司とのディナーだもんね?あわよくば喰われちゃえって?」 「なっ……」 何でそんなことを関係のない西崎さんに言われなくてはならないのだ。 悔しくて少し睨みつけてしまうと、西崎さんが私の手首を掴んだ。 「行くなよ……」 「やめてください、離して」 「やだ」 潤んだ目なんて見せないでほしい。それ以上西崎さんを見ていられなくて腕を振りほどこうとした所で後ろから声を掛けられた。 笑顔で小走りで近づいてきた蔵岩さんに視線を移すと、西崎さんの手に力が入る。 (痛い……) 「おまたせしました菜々華さん……っと蓮斗、何してんだ?手ぇ離せよ」 「やだ」 「は?」 蔵岩さんにやだと言い放った西崎さんは、そのまま私を強引に抱きしめてきた。びっくりして、抵抗するのに力が強くて動けない。 「ちょ、西崎さん!離してください!」 「いやだ、菜々華は行かせないっ!……オレを置いて行くなよ」 耳許に聞こえたのはそんな台詞で、戸惑ってしまう。一体どうしたのだろう
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