刻まれた痕【西崎視点】

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「はぁ……またリンリンに負けたぁ」 表情を崩したくてオレはそう話しかけるでもなく、でも確実に彼女の耳を引くように言った。結果……堅い表情の彼女が見開いた大きな目で振り向くと、その目に思わずドキっとしてしまった。 (やっぱり綺麗だな) 「リンリン?」 「だってアナタ『スズキ』さんでしょ?鈴だからリンリン」 予約表の片仮名の名前を指してそ鼻を擦る仕草をしながら言ってみた。 「残念ながら『涼木』と書きます、リンリンじゃありません」 彼女は目の前で漢字の名前を書いてみせたのて顔を近づけて文字を見ると、本当だ珍しい字だった。 「めずらしー『スズキ』さんなんだ?へー初めて会った、でももう決まり君はリンリン」 そういうと彼女はさらに目を見開く。 オレの顔を見てびっくりしたようだ。 なんでだろうなぁ……しかもとても不快そうにたぶん先輩だとは思われてないみたいだ。 「ん?イケメンでビックリした?ピアノ科3年の西崎です」 だからおどけながら完璧な笑顔を向けてみる。 「横井門下の涼木愛華です」 よろしくとは言わないのは言いたくないのかな?なんて思いながらも近付くと決めたからにはしっかり彼女を引き付けよう。そう、笑顔で会話した。 「横ちゃん門下!毎日弾いてんのか、真面目な良い娘だね」 そして、柔らかそうな頬をツンツンとつついてみたるけど表情は動かない。 (きれいな子なのに、カッタイなぁ……) 「もう少し表情和らげたら優しい音も出るんでない?上手いのに勿体ない」 だけど、この子はピアノを褒めてもちっとも嬉しそうじゃない。 (本当に良い音出すのになぁ) 「や、止めてください」 「またね?リンリン」 そのままヒラヒラと後ろ向きに手を振りながら練習棟へ先に行った。 その後、毎朝のように会っては少しくだらない話をする程度の仲になる。 これが……愛華との馴れ初めとでも言うか最初の会話だった。
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