刻まれた痕【西崎視点】

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そして……前期試験で辛うじてSを貰ったオレは選抜の秋の学内演奏会のメンバーに入った。 愛華も順当に1年生の中で選ばれたと聞いてこれはチャンスだと思ったんだ。 早速横井教授の部屋に遊びに行って、愛華と2台ピアノなんてどうか?なんてけしかけにいこうと考え、早速教授の部屋に行く。 それとなくその話をしていると、愛華がやってきて横井教授に珍しく抗議してきた。 「愛華、学内(演奏会)出演決定おめでとう」 教授が言うと愛華はとても不快そうに眉間にシワを寄せた。 「いやです、辞退したいです」 「そう言うな出ておけ、来年は出れるかわかんねーよ?」 教授は愛華を買っているから、出さないなんて選択はないだろう。けれど愛華は不満そうだ……この子は本当に欲がないのか? だけど、俺としては最後のチャンスだからそれを利用しない手はない。 「そうそう一緒に出ようよリンリン!」 「え?」 「西崎!気が合うな付き合うか?」 横井教授はかなりノリが良い人で、これで押せば行けそうだったからオレもそれを利用しようとした。 「横ちゃんと?やだーオレ愛華がいい」 甘えるような声をわざとらしく出してピアノの椅子に座り足をぷらぷらさせてみたり。 顔が美人の母親に似ているおかげで容姿は可愛いと男女関係なく言われているのを自覚している。 カッコいいではないのが少々不満ではあるが、調子にノッて可愛らしく見せておくと……色々人間関係が上手く行くことも分かっていて、わざとそれらしく振る舞って懐に入るわざを使っている。 あざとい?そうかもね。それでもこの世界を生きていくにはそれって結構便利なんだよ。 そんな感じで横井教授もオレのことを結構可愛がってくれているのも気付いてた。 「西崎さんも選ばれたんですか?」 でもそんな事には絆されないのかまたまた呆れ顔の愛華は淡々と話しかけてきた。 「そう優秀ですから。でも転科すんだわ来年から、だから今年が弾き納め」 「転科?」 そう、ピアノではこれ以上上がれない。それにオレがやりたい事と少しズレてるんだ。 「指揮科に!この美貌もカリスマ性もピアノじゃあ隠れちゃうからな、活かさないと!」 なーんて自分で言ってしまう。これくらいの自信を持ってないと上には上がれないだろ? オレの言葉に愛華はさらにさらに呆れたような顔をした。分かりやすい子だ。でも知ってるよ?オレのことを認めてるだろ?キミも。 「じゃあ西崎、愛華と二台(ピアノ)でもやるか?オレ指導してやるぞ」 「嫌です、絶対嫌!」 結局、愛華に断固拒否されてしまって残念だったが、なんかそれが愛華らしいなと自然と笑いがこみ上げてきたのも本当だった。 「あららつれないねぇ愛華は」 そんな君がやっぱり欲しいって思ってた。
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