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意識は人の波の向こうにあって、姿勢良く真っ直ぐに立って、先生や同級生に挨拶してる愛華をチラチラと見ていた。
深い海のようなブルーのドレスに身を包んだ愛華は華やかな美しさなのに清らかで、まさにオレには女神に見えていた。やっと人が離れた所で愛華に近づくと綺麗な黒い瞳が目に飛び込み、心臓が跳ねた。
「よぉお疲れ、やっぱりいつ聞いても正確だね君のピアノは」
そう褒めても愛華の表情は動かない。ただ静かに頭を下げるのみだ。
「お疲れです、西崎さんはキラキラですね」
そのまま……演奏者同士のハグのフリをして手を広げて愛華を抱きしめれば、抵抗しない愛華から芳しい花のような香りがフワリと鼻腔を抜けていき、胸が痛くなった。
軽い気持ちだった筈が、いつしか本気の恋になっていたのだと自覚したのはこの時かもしれない。
(ああ、この子が欲しい)
本気で愛華を好きになっていた。だから、手に入れたくて囁いた。
耳に唇を寄せて……
「可愛いよ愛華。好きだよオレ、お前の事」
あっと、思わず耳を舐めちゃったけど、まぁ大丈夫だろう。それにしても可愛いな……
「は?」
ビックリしたのか身体を離すように腕から抜け出た愛華は目を丸くしていた。
笑える。気付かないのかオレの気持ちを?
気づかないなら教えてやるよ。
「は?って色気ねーな、彼氏いないでしょ?オレがなってやるから」
「何を……」
「お前に色恋教えてやるよ」
微笑んで愛華にそう告げた。キミを落としてみせるから。
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