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それなのにキツイ口調も気にせずに涼しい顔で切り返された。そして戸惑っていると小さな声で西崎さんが呟いた。
「それに……君には色々力になって欲しいんだよ」
その呟いた表情が何とも苦しげで、何故か力にならなきゃいけないと言う気になってしまった。
「畏まりました、では仕事の一環で同行致します」
気付いたらため息をつきながら返事をしていた。急に寂しそうな表情なんてするから、つい!
でもそれもこの人タラシの作戦だったのかすぐに明るい表情になって、彼はスキップでもしそうな勢いで私の周りを歩く。しかも……
「カタイカタイ!あ、そうだ菜々華!オレの事は蓮斗って呼んでくれよ、ね?」
なんて、わざと可愛らしく見えるように口許を綺麗に引き上げて微笑んでくるから困る。つい、ドキっとしてしまうのだ。
(なんて人……)
だけど、こんな事で負けては居られないのだ。
「西崎さん」
カタイ顔を崩さずに半ば睨むように彼を見た。
「はい?」
「私にその演技いりません、絆されませんから」
「は……ンフフ。ハハハ!菜々華、やっぱりサイッコーだな」
(馬鹿にされている気がする……)
「可愛いカッコして来てよ?有望な若手イケメン指揮者の同行者らしくね、仕事だよ?仕事だから……頼んだよ?」
こう言えば素直に応えるんだろうなと思われていそう。だけどその通りだ。従ってしまう。
「畏まりました」
(あああ……私ったら……)
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