彼の創る世界

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西崎さんよりも先にホールについていた。 そして、入ってきてすぐに女の人に囲まれる彼をロビーの端から眺めていたのだ。 人が多い所は苦手だし、ましてや先輩や後輩、見知った派手な……あ、いや華やかな女性たちと話すのは得意ではないからだ。 見ていると、彼は相変わらず張り付けたような完璧な微笑みを浮かべて話している。あれにみんなヤラれてしまうんだろうと思った。オケの人たちもあっという間に彼の虜だったし。 「可愛いカッコして来てよ?有望な若手イケメン指揮者の同行者らしく」 昨日の仕事の時に西崎さんが可愛らしく笑ったので思わずドキッとしてしまったし、またまたつい頷いてしまった。 悩んだあげく、久々に深緑色のロングワンピースなど引っ張り出して着てみた。 ウエストが太いベルトでマークされている裾が広がるAライン、袖には白いカフスがある。 レトロな形で口うるさそうな年配の先生方にウケの良い服だから、関係者に会っても平気だろう。見た目も大事な世界である。それに仕事じゃないのに不細工な私が隣にいるのはイメージもよくないだろうに……となるべくなら身奇麗にしようと思った。 けれど鏡に写した姿はまるで大学の歌レッスンの時のように衣装だけ顔から浮いていて落ち込む。普段から着ないから似合わなのだ。 (だから綺麗な人に頼んでと言ったのに) そこまで考えて、なんで私を誘ったんだろう?と改めて思った。西崎さんは本当に掴めない。 そんな風に思いながらもここへ来て悩んだ服装も霞むほど華やかな先輩たちの輪の中には入れず、人が居なくなるのを待っていた。 しばらくすると、西崎さんが急に演技の仮面を外したのがわかった。 (あ……) 現れたのは西崎さんの女神、愛華さんだった。
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