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愛華さんは相変わらずの美人。大学生の時よりも当たり前だけれど大人になっていて、もっと素敵になっていた。
どうやら西崎さんはそこまでの自覚がないようだが、大学時代から非常に目立っていたので、本人が話す前から愛華さんが彼の元カノだったことは知っていた。
(有名だったんだから……)
西崎さんと言えば音大内でダントツ人気の先輩で、後輩たちにはいわゆる『神』呼ばわりされていた。とにかく華やかで色んな噂もあった。
さらに一年先輩には蔵岩さんもいてそちらも王子として名高かったけど……
そして愛華さんも同様に目立つ人だった。美人が多い学内でも一際美しく、さらには横井教授の秘蔵っ子でピアノが上手いので有名な先輩。同性ながらひそかに恋い焦がれるように憧れていた後輩も多かった。
その二人が後輩たちの憧れのカップルだったことを西崎さんは知らないのだろう。私もその1人だった。
西崎さんの四学年下の私は二人がお付き合いをしていた頃は大学付属の高校生だったのだけれど、敷地も隣でレッスン室などが共通だったので、二人の姿はよく見かけていた。
一度印象的な時があって、それはレッスン棟で見かけた時だった。二人がベンチで並んで座っていて、顔を近づけて楽譜を見ながら何やら話している所だった。
麗しの二人が一緒にいる!なんて胸を躍らせながら影から見ていると……西崎さんが愛華さんの頭を優しく撫でて、やがて甘えるように首を傾げた愛華さんが西崎さんに口づけていた。
覗き見だったけれど、その姿は息を飲むほど美しくて思わず声が出そうになった。
高校生の私はそのキスシーンの美しさにうっとりして、たびたび思い出しては一人ため息をつくくらい憧れていたのだ。
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