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「ちょ、何するんですか!」
「はい!そのままー」
「み、見えないからやめてください」
「大丈夫、大丈夫」
西崎さんは笑いながら私の赤いフレームの眼鏡を胸ポケットにしまうと自分の腕を差し出した。
「ほれ、つかまって」
「……は?」
「仕事、仕事、コンサートと言えばエスコート!」
西崎さんはニヤリと笑っているのがぼんやりした視界に見えた。
(そうだった、演技、これは演技)
確かオペラの演習でこんなことやったなぁと、なるべく自然に見えるように西崎さんの腕に手を添えた
「ハハ……ちゃんとデキるんじゃん、そんな顔」
「え?」
「傍から見てたらすっげぇイイ女だよ、菜々華」
西崎さんは急に声を低くして艶っぽく囁いてきた。何をくだらないお世辞を言うんだか、やめて欲しい。
「セクハラに当たりますよ?これは仕事ですから」
「そりゃ失礼、さ、行くよ」
そんな私の言葉なんてサラリと流してしまうことにため息をつきながら……私の腰に手を回した西崎さんにエスコートされて会場に入った。
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