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扉を開いた瞬間から会場に居た女性たちの突き刺さるような視線が降り注いできた。
その中を歩く羽目になり、改めて西崎さんの人気ぶりを実感する。
(視線で殺されるかもしれない……ひょえ。眼鏡無しでよく見えなくて正解)
演奏は市民オケとは言え中々に聴き応えがあったし楽しかったのだが、演奏ではないところで終演後ぐったりしてしまった。
そんな私をよそに西崎さんには終演後も何人もの大学の関係者が挨拶にきていたので横で待機していた。
すると、その人の輪から隠れるようにして、その後ろを通って愛華さんとあの恐ろしいほど顔の整ったイケメンがホールを後にしていた。
その二人に気づかない西崎さんに特にそれは伝えなかった。
(ん?なんでだろう会わせたくなかったから……?)
そんな自分の気持ちにビックリしていると、西崎さんが挨拶の波が切れた所で声をかけられた。
「菜々華ぁ、疲れたからもう行こう、飯奢ってやるから」
少しうんざりしたような顔で笑っている西崎さんに頭を下げる。
「お疲れ様です。いえ、私はもう帰ります」
これ以上キラキラな西崎さんと居ると疲れる。早く帰りたかった。それなのに西崎さんはそれを許さなかった。
「えー?まだ業務中だよ?レストランは1人で行けないから」
「え?大人ですからお一人で行けますよね?」
「そんな!帰国したばかりの業務を終えたイケメン指揮者を一人でレストランに行かせるの?なんて冷たい秘書なんだ!」
そんな風に大袈裟に嘆かれた。
「でも……」
(イケメン関係ないし!)
尚も断ろうとすると、捨てられた犬のようにとても悲しそうな顔をしてこちらを見ている
(ううう……負けた……)
「畏まりました」
そこで、仕方なくついていった。
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