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仕方なくカバンを持っていない方の手で背中をポンポンと軽く叩く。
「西崎さん、逃げないのでまず離してください……ね?」
ゆるゆると西崎さんの手が離れて抱擁が解かれた。けれど手は握られていて、それは離されなかった。
その様子を見ていた蔵岩さんが溜息をつく。
「何だよ、本気なのか蓮斗」
「わかんない」
「はー?だったら今日はオレに譲れよ。約束だから」
蔵岩さんが繋がれていた手を強引に引き剥がそうとすると、西崎さんが首を振った。蔵岩さんには逆らうこともなかったみたいなのに、なぜこんなに頑なに嫌がるのだろう。
「サトルン……わかんない、オレわかんないけど菜々華に行って欲しくない」
「なんだその我儘」
蔵岩さんが呆れたように西崎さんを見た。
間に挟まれた私はどうして良いか分からずに立ち尽くすだけだ。
暫くしてお互いを探るように見ていた二人が急に笑い出して、肩を叩き合い始めた。
「あー、おかしー!こんな我儘な蓮斗初めてだな……わかったよ今日は三人で行くか?」
「うん、そうしてよサトルン、いいよね菜々華」
「あの、まぁ……はい」
断る理由も無いし、何よりこの状況から脱したい。
そうこうしていると、ビルから愛華さんと本栖さんが出てきた。
「蓮斗、ほら!頑張んなさいよー?専務、菜々華さんもお疲れ様です」
愛華さんは笑顔で手を振って、頭を下げた本栖さんと手を繋いで駅の方へ歩いて行った。
「なんか余裕でムカつくな愛華のやつ……」
「なんか、愛華ムカつく」
西崎さんと蔵岩さんが同時に呟いた。
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