刻まれた痕【西崎視点】

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刻まれた痕【西崎視点】

(あー疲れた) 部屋に戻ってすぐにシャワーを浴びた。 濡れた髪を拭きながらソファーに座って鞄の中のスコアに手を伸ばすと欠伸が出た。 (ふぁぁ) 帰国後は大した仕事はしてないはずなのに、酷く疲れた。慣れない事をしているせいかな。 明日は初めてのオケで初めてのリハだし、スコアを確認しなくちゃと思うけど身体が重い。 『それは今夜はいいから寝てください』 ふと、カタイあの子の声が頭に響いた。怠いのは身体だけではなく、何だか頭までもがぼーっとする。確かにこれは思い切って寝た方が良さそうだ。 曲は頭には入ってるし、イメージも出来てる。あとは…… (体力回復だな) そう思ってベッドに寝転んだ。 目を瞑って思い浮かぶのは……愛華の姿だった。 (元気かな) もう離れて10年だ。オレも大概シツコイ奴だと我ながら笑ってしまう。 傍で支えている奴も居るってサトルンも言ってたし、オレだって今更愛華とどうこうなりたいだなんて思っちゃいない。 ただ、愛華がオレの女神であることは一生変わらないし、アイツ以上の女に出逢えない。ただそれだけだ。 目を開けてジッと手を見る。小さな手だと思う。だけど器用な方だし指揮棒を持つとキレイだとか言われてるのも知ってるし自覚もしてる。それに…… 『蓮斗の手は神様から貰った手だから』 今度は女神の声が響く。その言葉は信じてる。だからこの手は自分でも大切にしたい。 さぁ今は眠るか……
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