呪祓師 序

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  いつなや 身に吹く花の病   幼き姫を苗床に   摘んでも 摘んでも 花は吹く   あわれ 花にまみれた開かずの間   誰とて 誰も 救えますまい  大正末期に生まれた、曾祖母の話である。  八人兄弟の末っ子に生まれた曾祖母は、「ヤカ子」と名付けられた。  ヤカ子の家はある金持ちのお屋敷付けの使用人一家だったので、小さいころから屋敷全体の世話仕事に駆り出された。  ある日、ヤカ子はお屋敷の一番奥の部屋へ連れて行かれた。  手をひいたのは屋敷の奥方、「九条まひる子」である。 「あんた、あの子のちょうどいい遊び相手ねぇ」  まひる子はその名に反して血の気のない、蒼い顔だった。だが鋭い骨ばった輪郭は美しさ以外のものを切捨てる強さがあった。  ヤカ子はなるべく、台所仕事や庭仕事をして奥方から身を隠すようにしていたが、奥方はしっかりヤカ子を見ていたようだ。 「よう気がつくし、歌もじょうずなもんね」  手をひかれながら、ヤカ子は顔を紅潮させた。 「そんな、下手です。わたし、下手です」 「うちの姫さんに歌、教えてあげてね」  そうしているうちに、ヤカ子も知らない部屋に着いた。 「姫さん、とても身体が弱くて、同い年の友だちもいないのよ。あんただったら、きっと仲良くなれると思うのよ」  ヤカ子は心臓が波打つ音を耳の奥で感じた。  部屋は暗かった。  相手は仕切りの向こうにいて、その姿がはっきり見えない。 「姫さん、ヤカ子っていう娘、連れてきたよ」  まひる子はヤカ子を残し、その場を去ってしまった。 「やかこ……」  カゲロウのように細く絞りだす「姫さん」の声に、ヤカ子は戸惑うだけだった。 「あの、奥方さまから姫さまのお相手をするようにと言われました。手毬、かるた、歌遊びぐらいしかできませんが」 床に手をつき頭を下げながらヤカ子が必死に言うと、 「あんた……いくつ……?」
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