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姫さんが尋ねた。
「とお、です」
「……とお、十歳。あたしよりふたつ、した。でもあたし、いくつになったんだっけ……」
姫さんは呟きながら、部屋用の灯りをつけた。
「ひっ……」
姫さんが仕切りをよけてヤカ子の前にその姿を晒した。
全身、葉に埋もれている。
まるで樹木のようだ。
「おどろいたでしょう」
「姫さま、一体どうなすったのですか」
「桜の病なんよ」
「桜……あの桜餅や、お花見の桜ですか?」
「今は葉桜なの、これが秋、冬に葉が落ちるでしょ、そして春になると花が一斉に吹いて」
姫さんが動くと、葉が擦れ合う音が響く。
「そしてまた、葉桜になる。お医者さんも、祈祷師も、みんなダメだった。みんな怖がって、祟りだって」
姫さんは唯一、葉の生えていない顔に、涙を流した。
「葉が落ちて花が吹く季節だけ、あたしは屋敷の中を歩けるのよ、それがたったひとつの気休め」
ヤカ子はじっと、姫さんの言葉に寄り添っている。
「気味悪いでしょ、帰っていいのよ」
姫さんが涙を拭うと、手に生えている葉が数枚、落ちた。
「姫さま。わたし、怖がったりしませんよ。父に聞いたことあります。桜の呪いを。新月を待って、お屋敷の桜の樹の下を掘ってみましょう」
「やかこ、お前なにを言っているの?」
「姫さまをお助けしたいのです。父に手伝ってもらえればきっと、姫さまの病気は治ります」
十を数える少女とは思えないほど、ヤカ子は新月の日まで姫さんの遊び相手をしながら、今まで通り使用人手伝いとしてふるまった。
姫さんはヤカ子とかるた遊びをして、折紙を折った。縁側を覆っている布を少し開けて、陽の光を浴びたりもした。
やがて新月の夜を迎えた。
夜空に月が無いのを確認したヤカ子と父は、姫さんを部屋から連れ出した。
「ああ、怖い。誰に見られるとも知れない」
「大丈夫です。今夜、すべてが分かります」
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