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――あァー! ゥあー……アぅぁアぁぁ!
うるさい、うるさい。
ああ、頭が痛い。
誰だ? 人がゆっくり寝ているのに耳元で叫ぶ奴は。
耳……耳といえば耳栓はどうした? こんなに大きな声が聞こえているんだ。耳から外れているかもしれない。
ぽんぽんと耳に触れて耳栓を探す。ちゃんと入っている。なんだ、ちゃんと入っているじゃないかと思ったのもつかの間、じゃあ今もなお聞こえてくるこの、『赤ちゃん』の泣き声は――
急に頭が覚醒する。赤ちゃんはまだいない。好美のお腹の中だ。
――ウぁアア! アぅああァうぅェあ! うェっ、ぇウ、アァぅえゥ!
声が大きくなる。まるで、赤ちゃんが乳を求めているかのような騒ぎだ。友人の赤ちゃんもこんな声で泣いていたのを覚えている。
手を施しようがない状況だ。何よりも、怖くて目が開けられない。耳元で声が聞こえるということは、赤ちゃんが僕の隣にいるのだろう。
脳内では血まみれの赤ちゃんが、ハイハイしながらこちらに向かってくる映像が流れている。ホラーゲームで何回も見た光景だ。
ボゥっと眺めていると、赤ちゃんの首が落ちて、中から長い髪を振り乱した女性が出てくる映像に切り替わる。頭の中で展開されるゲームはなかなか終わらない。
ああ、このゲームのタイトルはなんだっけ。赤い……赤い……思い出せない。
タイトルも時間も分からないまま、僕は声が聞こえなくなるまで、血走った目をした女性に追いかけられ続けた。
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