音の正体

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 持つべきは優しい同僚だ。僕は五郎さんに昨夜の出来事を詳細に話した。彼は季節外れの怪談だなと笑うことなく、真剣に話を聞いてくれた。 「ふーむ……変な音か。その話が本当なら今日も聞こえるんじゃないか?」 「やっぱりそう思いますよね……どうしましょう……」 「とりあえず耳栓を買うべきだな。睡眠薬は医者に相談して処方してもらう方が安心だろう。まだ午前中だから早退して病院に行くか?」 「そうですね。作業も捗らないし、さっさと病院に行って今日はゆっくり休みます」  五郎さんにお礼を言って工場長を探す。広い工場だから見つからない時は本当に見つからない。十分くらいウロウロしてようやく見つけると、開口一番「調子悪いのか?」と聞かれた。今日はやたらと体調のことを心配されるが、よっぽど青い顔をしているのだろう。早退すると伝えると、滅多に部下の心配しない工場長が労ってくれた。   病院での診察は呆気ないほど早く終わり、副作用の少ない睡眠薬を処方された。最後に「これで寝られないようならまた来てください」と言われたので、とりあえず今日は様子を見ることにした。本当に眠れるのか疑問だが、いきなり強い薬を出されても困る。妥協も大切だ。  次はドラッグストアを目指す。目的は耳栓だが、一種類しかなかったらホームセンターにも行くつもりだ。  熟睡するためには部屋の環境はもちろん、自分が不快に思わないようにする必要がある。 耳栓が合わなくて、また一晩中あの音を聞いていたら気になって眠れなくなる。朝まで起きているのは精神的に辛いのだ。  病院から車を走らせて十分後、あまり馴染みのないドラッグストアに入って耳栓を探す。天井に吊るされている看板を頼りに店内を歩き、こぢんまりとしている耳栓コーナーを見つける。一種類しかないだろうと思っていたが、意外にも三タイプの耳栓が売られていた。これなら僕に合う耳栓が見つかるだろう。
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