枯れ木に花を

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爺さんと婆さんの庭の桜の木の下に、大量の現金が見つかったことは直ぐに知れ渡った。猫も杓子もその話題で持ち切りである。どうやらその金は爺さんの隠し財産であったらしく、ポチの所為でその財産は白日の下に晒されることになってしまった。さらに爺さんは脱税の容疑で取調べを受ける羽目になったが、金自体は合法的なものであったらしく、無罪放免で家に帰ってきた。 婆さんは見つけた金を、すっかり近くの幼稚園に寄付してしまった。それについて爺さんは特に文句を言わなかった。見つかってしまったものは、もはや仕方がないと観念したのだろうか、金に煩い爺さんにしては諦めの良いことである。 さて、爺さんが取調べを受けている間に、私の周りではもう一つの大きな事件が起こっていた。 ポチが車に撥ねられて、死んでしまったのだ。 ポチが隠し財産を発見したその日、爺さんは怒ってポチを追い払ってしまった。婆さんはそのうち戻ってくるだろう気長に構えていたが、数日して戻ってきたポチは死体になっていた。外の世界を知らない愚かな犬にとって、車の行き交う渋谷は危険過ぎた。 婆さんは酷く落ち込んで、火葬にしたポチの灰をいつまでも胸に抱えて泣いた。ポチを庭に出したことについて、婆さん自身を責めているようにも見えた。 「こんなことになるなんて。」 婆さんは私に言った。 私は何とも言ってやることが出来ないが、婆さんの話をただ隣で聞いてやる。婆さんはまるで懺悔室で神父に罪を告白するかのように、私に語った。 「あの金はね、爺さんが隠し子の為に残した金だったのよ。」 婆さんの話は、猫の理解する範囲において次のようなことであった。 爺さんには隠し子がいた。新橋の芸者との間に出来た子供だった。そして爺さんはその子供を認知しなかった。きっと私に気を遣ったのだろうと、婆さんは言った。しかし、婆さんは全てを知っていたのである。 その後、芸者は病で倒れて、亡くなってしまう。芸者の遺言は、子供には一切を知らせないことと書いてあった。だから爺さんは娘の身を案じながらも、 何もしてやることが出来ないでいた。 そして、せめて遺産だけでも渡す方法がないか考えた末に考えついたのが、埋めた隠し金を娘に見つけさせるという方法だったのだ。
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