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「お前、あのラーメン屋の娘と一緒になるんだって?」
おっ、これはすごい展開だ。聞き逃してたまるか。
「あそこのオヤジは偏屈だから苦労するぞ」
「偏屈じゃないオヤジなんて、いないですよ」
「実際に苦労してないから、そんなこと言えるんだよ」
「いいじゃないですか、別に・・・」
更に、ポツリと、恥ずかしげもなく、堂々とした口調で、
「お互い、好いとるんだし、それ以外に、何があるんですか」
思わず、ジーンときてしまった。
近くのコンビニでコーヒーを買い求め、今、小さな川沿いに設置されたベンチで、小休止している。スマホのロックを解除し、この旅で撮りためた写真を確認していると、名所、旧跡、自然風景、ローカル線の車両、それらを経て、最後の最後に、あの、今にも破れそうな、営業とは直接関係の無いポスターが何枚も貼られた、小汚いラーメン屋の外観が、姿を現した。去り際に記念として、一枚残しておいたのである。こんな写真、たとえSNSに掲載したところで、誰も「いいね」の評価を下すことはないだろう。だが世の中には、自分にしか分からない、またそれでも構わない、「いいね」が、いくらでもあるものだ。それらを「思い出」と、呼ぶ。
空はどこまでも青い、川面はキラキラと輝いてる。すぐ後ろを、学校帰りの女子高生が、昨日見たTVの話題に花を咲かせ、通り過ぎて行った。さ、ここらで自分も駅に戻るかと、立ち上がった時だった。不意に上腹部に、違和感を覚えたのである。あの、やけに脂っこいスープのせいで、まだ若干、胃がもたれているのだ・・・。
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