伝わらない気持ち

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 その一月後のことだった。秋の収穫が終わり、国中が祭りの雰囲気に浮き足立っているところに、国境から狼煙(のろし)が上がったのは。  赤い狼煙は騎士団の定めた警戒値では最大のものだった。国境からいくつもの中継点を通って狼煙が王宮にもたらせると、騎士団は素早く準備を始めた。戦に行くのは騎士だけではない。戦闘準備に城が混乱に惑うことなく各々の仕事をこなすのは、隣の国からの攻撃が珍しくないからでもあった。   「フリオ先輩……。西の国境ってフィル様の……」  フリオは、エリックが輸送用の飼い葉の準備をいているのを見ながら、自身は軍馬の鬣を編み込んでいく。フリオが担当しているのは騎士団司令官の軍馬だから、見栄えも重要なのだ。 「そうだな。うちの騎士団は強いから安心して自分の仕事をしろ。フィル様もそういうはずだ」  戦になれば、輸送用のための馬も市民から借りだされる。馬に関わる自分達に時間の余裕はない。 「はい!」  エリックの目から迷いが消えた。  心配しているなんてことを言ったら、クリスティーナはきっと猛烈に怒るだろう。騎士として、クリスティーナは誇りをもっている。エリックは、それに見合う馬に対しての誇りを持ちたいと思っているだから。  エリックは、素早く整然と飼い葉を荷馬車に積んでいく。 「伝令だ――。伝令が着いたぞ!」  外から城門を突破した騎馬が人を乗せて駆け込んできた。伝令のたすきが掛けられた馬はそのまま横倒しに倒れこんだ。 「水だ――!!」  人だかりから立ち上がったのは自身もあちこち赤く染まった女騎士だった。青い隊服に血がしみて紫に変色している部分もあった。  騎士がその伝令に肩を貸すと、エリックにも顔が見えた。 「フィル様!」  エリックは、側まで駆け寄ることが出来なかった。その周りは青い隊服の騎士が囲んでいて、伝令であるクリスティーナを王の元に連れて行くために手を貸しているからだ。
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